国盗り物語 読後感想

国盗り物語全四巻を読み終わりました。手に取ったきっかけは斎藤道三、織田信長、明智光秀という戦国時代で一番面白い時代が描かれていたから。特に織田信長がどう描写されているかが気になったんですよね。


国盗り物語(一) (新潮文庫)

ですが、国盗り物語というのは斎藤道三が主人公であり、織田信長と明智光秀はどちらかと言えばおまけ的な存在です。なぜなら全四巻で最も描かれているのが斎藤道三だから。一巻~三巻まで登場し、その後に織田信長と明智光秀の活躍などが描かれています。

それもそのはず。ウェブで検索してみたら、司馬遼太郎は国盗り物語は斎藤道三の一代記を描こうとしていたということらしい。織田信長と明智光秀については、当時連載していた編集部から「このまま終わらせるのはもったいないので続編を書きませんか?」という話があり、後付けで物語を作っていったということのようです。

私は織田信長が目的で国盗り物語を読み始めたわけですが、斎藤道三編が面白すぎて、それが終わるころに第三巻に突入していたので「いつになったら信長と光秀は出てくるんだろう?あとちょっとしかないけど??」と思っていたら、そういうことだったんですね。

第三巻の半分くらいで斎藤道三が死に、その後は織田信長と明智光秀が話のメインになっていきます。なので信長と光秀がメインなのは賞味一巻半(笑)。

なので、信長の数々の偉業や戦などのことは省かれていたり、さらっと流されている部分も多々あります。著者が描くべきだろうと考えた部分についてのみ触れているという感じでしょうか。

それでも明智光秀については信長よりも心の描写や行動が多く書かれているように思います。国盗り物語のそれぞれの人物の描かれ比率はこんな感じでしょうか。

斎藤道三|55%

明智光秀|25%

織田信長|20%

司馬遼太郎の著書の中では織田信長、明智光秀を主人公にしたものがないので、是非描いてほしかったな~と思いますが、国盗り物語しかないのがとても残念。豊臣秀吉は「新史 太閤記」、徳川家康は「覇王の家」という小説があります。徳川家康に関しては「関ケ原」や大坂の陣で豊臣と徳川の決戦を描いた「城塞」というのもあります。どれも面白いです。

織田信長のことを扱った本としては「信長公記」が最も現実に近いものなのかもしれません。信長の部下であり書記だった太田牛一が書いたこともあり、かなり真の信長像に迫ったものだと考えられています。


現代語訳 信長公記 (新人物文庫)

もう一つはフロイスの日本史。こちらはキリスト教を広めようとして来日していたるルイス・フロイスという第三者目線が書いたものなので、こちらも歴史的には信憑性の高いものとなっています。明智光秀の人物像についても触れていて「裏切りや密会を好み、刑を科するに残酷で、独裁的でもあったが、己を偽装するのに抜け目がなく、戦争においては謀略を得意とし、忍耐力に富み、計略と策謀の達人」なんて書かれています。


完訳フロイス日本史〈3〉安土城と本能寺の変―織田信長篇(3) (中公文庫)

ですが、私は歴史書ではなく小説が好みです。淡々と事実(であろうこと)が書かれているのはそれはそれでいいんですが、楽しく読むという感じではありません。「知る」ためだけに読むという感じ。嫌いではないですけど。

小説だと作者が作り上げた人物像があり、その上でセリフがあります。歴史小説の場合、大体世間で知られているようなイメージとかけ離れることはあまりないですが、それでも作者によってキャラクターが異なることがあり、そこが楽しかったりもします。

明智光秀の場合、織田信長への謀反について陰謀説で描くのか、精神疲弊説で描くのかで本能寺の変への持って行き方が変わりますしね。

そういう意味では堺屋太一が書いた「鬼と人と」という小説があるんですが、これは秀逸だと思います。織田信長と明智光秀が交互に独白していく形で最後まで描かれます。

この小説では「何かを作り切り拓いていく人=織田信長=鬼」と「それに従う(従わなければならない)秀才=明智光秀=人」が描かれていますが、企業に例えると創業者とその部下という感じでしょうか。

最後の1ページに書かれた光秀の衝撃的なセリフはNo.1とNo.2ではこんなにも差がありすぎるのか?と思うようなもので「悲しすぎるぞ、光秀…」なんて思ってしまうし「君には器量がないんだから、謀反なんかしなきゃ天下を引き継げたのに」とか思ってしまいます。第三者の読者としては(笑)。天才と凡人を感じさせられずにはいられない感じ。

長らく絶版になっていた気がしますが、大河ドラマ「麒麟がくる」の影響なのか新装された文庫が出ています。


鬼と人と (上) 信長と光秀 (朝日文庫)

織田信長と明智光秀を描いた小説としては個人的にかなりおすすめです。挿絵なんて一切ありませんが、読んでいると情景が浮かんでくるんですよ。この小説は長らく私の本棚にずっとあり、ブックオフ行きから免れている数少ない本の一つとなっています(笑)。

ということで最初に戻りますが、国盗り物語は斎藤道三がメインとなっている歴史小説です(それはそれですごく楽しい)。信長や光秀のことがたくさん書かれているだろうと思って読むとそれはちょっと違いますね、という話でした。

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